上橋泉著 如月出版刊

『21世紀に生きる日本人のための浄土思想を求めて』

 今年度アカデミー賞の作品賞、脚色賞、編集賞の三部門で受賞した「アルゴ」(ベン・アフレックが監督・主演)は、一九七九年にイランで行われたアメリカ大使館人質救出作戦を描いたサスペンスドラマだ。当時、五十二人が人質になったが、混乱に乗じて六人のアメリカ人が自力で脱出、カナダ大使の自宅に身を潜める。そこでCIAの人質救出専門家が彼らを国外脱出させるため、架空のSF映画「アルゴ」を企画。その撮影スタッフの中に六人を潜り込ませて出国させようとしたのだ。奇想天外だが、実話である。

 この作戦で重要な役割を演じた日本人外交官がいた。事件当時、テヘランの日本大使館に勤務していた上橋泉氏である。後に千葉県柏市の市会議員に転身した異色の人物だ。そんな上橋氏は東日本大震災直後、柏市にやってきた大勢の被災者と接触するが、彼らの心の中に入っていけなかった。悩んだ末、大戦中ナチスの強制収容所で三年間過ごしたユダヤ人、ヴィクトール・フランクルの不朽の名著『夜と霧』にたどりつく。フランクルは「生きることの意味」を追求した思想家で、彼のスピーチに感動して自殺を思いとどまった人も少なくない。

 フランクルの著作を読んだ上橋氏は、大震災には天意が込められているのではないか、と思う。「今次の大震災が史上未曾有の天災であったにもかかわらず、そこに何らかの天意ないしは摂理を感じて謙虚さを回復する姿が国民に全然見えて来ない」と痛感。大震災には因果応報があったのではないか。こうして上橋氏は「西方浄土」の意味も探る。同書の副題は「この宇宙に無意味なものは一切ない!」。哲学的で難解な内容にもかかわらず、不思議なくらい面白い一冊だ。

評・山本徳造(ジャーナリスト)