月刊東海財界2013年10月号

今月の一冊

とびらのむこうがわ 著者いべ かすみ 発行 如月出版

 著者は二〇〇三年生まれ、まだ十歳の小学五年生だ。驚いたことに、参考文献はC・S・ルイスの名作『ライオンと魔女<ナルニア国ものがたり>』一冊だけ。ファンタジー好きの少女が描くのはどんな物語だろうか。

 一話目は、森を歩く少女の物語。作文のお手本のような直喩や語り口が非常に小学生らしい。ごく自然に、自分自身の体験を書いていったのだろうと想像できた。ニ話目は学校の話だったこともあり、その印象がさらに強まった。どれも短い物語で、簡潔に日常を切り取っている。

 ところが、読み進めていくと、同じ目線で描かれた『ライオンと魔女』アスランが登場するのである。まるで実体験のように、ライオンとの思い出が語られているのに、正直言って驚いた。自分自身の想像の世界に入っていく力と、大人がなつかしく感じる幼い思考は、今しか書けないものだろう。

定価・九五二円+税。